東京地方裁判所 昭和39年(ワ)693号 判決 1964年7月17日
原告 鈴木秀次郎
右訴訟代理人弁護士 松崎憲司
被告 下田正治
右訴訟代理人弁護士 落合正隆
主文
原告は被告に対し東京都港区麻布飯倉町二丁目一〇番の一、四、宅地中別紙添付図面ADLKJEAを順次直線で結ぶ斜線部分二二坪につき賃借権を有することを確認する。
被告は原告に対し別紙目録記載の建物を収去し、右土地を明渡せ。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求めその請求の原因として原告は昭和二一年四月訴外深山幸助から本件土地を期間の定めなく賃借し、その地上に建物を所有していたところ、被告は昭和二二年三月本件土地所有権を右深山から取得した。ところが昭和三六年一〇月頃本件土地で地下鉄工事をするため原告は右建物を取除いて一時立退いたところ、被告は右工事完成直後本件土地上に原告の賃借権を無視して自ら別紙目録記載の建物の建築を開始した。よつて原告は被告に対し本件土地の賃借権の確認を求めると共に右賃貸借契約に基き右建物を収去して右土地を原告に明渡すことを求めると述べ、被告主張の抗弁に対し菊山朝子は原告の養子で、かつ原告と同居しているものであるから本件土地賃借人が原告であり家屋名義を朝子名義にしてもこれをもつて原被告間の賃貸借契約上の信頼関係を破るような不信行為ではない、かりに然らずとしても、昭和三一年九月被告の承諾を得たし、右明示の承諾がないとしても被告は改築許可申請書に捺印し改築工事中菊山朝子名義の改築許可済の立札を掲げ、その後も菊山名の表札を掲げていたのに何ら異議を述べなかつたのであるから黙示の承諾があつたもので被告は前記賃貸借契約解除の理由はないと述べた。≪立証省略≫
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張の事実は全て認め抗弁として、原告は被告の承諾を得ないで昭和三一年九月頃本件土地上にあつた原告の建物の改築に際し本件土地を訴外菊山朝子に転貸し、同訴外人がその所有の建物を建築したので被告は原告に対し昭和三六年八月二六日頃賃貸借契約を解除する旨通告し右契約は終了した。よつて原告の本訴請求は失当であると述べた。≪立証省略≫
理由
原告主張の請求原因は当事者間に争がない。
そこで本件土地の賃貸借契約解除の抗弁について判断する。被告は改築後の建物が菊山朝子名義であることをもつてその敷地の無断転貸であると主張するが≪証拠省略≫と被告本人尋問の結果によると、右朝子は原告と同居する原告の養子であることが認められ、右のように賃借人がその同居中の推定相続人をして使用せしめたとしても特段の事情の存しない限り、賃貸借契約に伴う信頼関係を損うものではなく、従つてこれをもつて無断転貸として賃貸借契約を解除することはできない。そうだとすると特段の事情について何ら主張のない本件において被告は右朝子名義の建物が建築されていることをもつて本件土地の賃貸借契約を解除することはできないものといわねばならない。
従つて右賃貸借契約に基いて被告は原告に対し本件土地を使用せしめるべき債務があるのにそれをなさず、自らその上に家屋を建築したものであるから、被告はこれを収去して本件土地を原告に明渡すべき義務がある。
よつて、原告の被告に対する本訴各請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。なお仮執行の宣言は本件において必要ないものと認めこれを附さないこととした。
(裁判官 三好徳郎)